日本語音声学

第４回

発音記号を覚えよう　その１

	今日のポイント
	IPA（国際音声記号)って？
	母音と子音の違い
	母音
	子音
	復習テスト

1．IPA（国際音声記号）って？

英語の時間に発音記号って見たことある？

う～ん。たぶんね。

でもあんまり知らないって？

だって、ちゃんと習ったことないんだもん。

じゃあ、ちゃんと習おう！

国際音声学会(International Phonetic Association)、略してIPA。

「国際音声学協会」とも言うよ。

ここが、国際音声記号（International Phonetic Alphabet）、略してIPA。

これもまたまた「国際音声字母」ともいう。

っていう記号を決めてるんだけど、

世界中の言語の音声を表記できる！という理想を掲げて作られた。

これがいまの世界標準ってところかな。

へ～、どっちもIPAなんだね。

うん。

まずは基本のIPAをかじってみよう。

	実験1
	以下の国際音声記号の表をながめてみよう！

子音

肺臓気流

母音

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　【ＩＰＡ（国際音声記号）】

２．母音と子音の違い

ところで、母音（ぼいん）と子音（しいん）という言葉は聞いたことがあるかな。

ちょっとはね。

「あ、い、う、え、お」とかが母音というのは聞いたことある？

うん。

まずは、その２つの違いから見てみよう。

簡単にいうと、

肺からの「空気の通り道の途中で空気の流れがいろいろな方法で邪魔される」のが子音、

邪魔されずに通過するのが母音だよ。

だから。。。

子音は道を閉じる！母音は道を開く！と覚えよう。

母音		子音

子音はその空気の妨害の方法によって分類される。

へ～。

母音は子音と比べたらどちらかというと空気の妨害がないけど、

じゃ、何が違うの？

母音によって口の構えが違う。

前回やったよね。口の形が変わると音色が変わるって。

うん、やったやった。

じゃあ、その口の構えの違いによる分類方法についても見ていこう。


あと、もうひとつ大事なのが「声帯振動があるかないか？」

母音は基本的に声帯振動がある。

喉頭原音がある、つまり声が出ているってことだよね。

うん。

子音は声帯振動（声）があるもの（有声音）とないもの（無声音）とに分かれる。

	被裂軟骨が 輪状軟骨の上で 内側に回転		緑が甲状軟骨 ○が輪状軟骨 青が被裂軟骨
声帯振動あり		声帯振動なし
有声音		無声音

無声音は開いた声帯の間を呼気が通るだけで声帯を振動させない。

３．母音

まずは母音！

母音の分類は以下の３つのポイントがあるよ。

　　　①唇の丸めがあるかどうか？

　　　②口の中の開きの度合

　　　③舌が前にあるか後ろに引かれているか？

これな～んだ！

う～ん。記号いっぱい。英語の辞書で見たことあるのもあるかも。

ま、これだけじゃわからないよね。

もうちょっと説明しとこうね。

第一次基本母音	第二次基本母音

	実験2
	上の２つの図がそれぞれの母音を作る時の何かを表している。 なんだと思う？ 左に向かって口を開いている人を想像してみて！ ヒントは右の図だよ。
	もうひとつヒント！こんなふうになるんだ。 基本母音の図のそれぞれの点は何を表していると思う？ 舌の位置？ 舌って大っきいよね。舌のどこ？ 舌の先の位置？ 残念！あともう一歩！ 右上の図をみると。。。 発音する時の舌っていつもどこかが盛り上がってるよね。 つまり、「一番盛り上がっている点の位置をプロットした」 のが基本母音図なんだ。 へ～！	【各母音の舌の位置の変化の図】

	IPAの基本母音ってどうやって決められたの？
	基本母音図をみてみよう！ まずは、舌の山が最も前に寄っていて、かつ最も高いところにある時を[i]の点と決めたんだ。 みんなも出してみよう。 日本語の「い」より口の開きがちょっと狭いけど、がんばって出してみよう！ そして、舌の山が最も後ろで、かつ最も低い場合を[ɑ]とした。 これも日本語にはないから、ちょっときついよね。 う～。苦しい！ がんばって！ さらに同じように[a]と[u]の点を決めたんだ。 外側の枠を舌が動くいっぱいいっぱいの線までに決めたんだね。 あとは、その内側を縦は、口の開きを３等分してそれぞれの音を決めた。 本当は口の開きを４段階じゃなくて、聴覚印象で４段階なんだ。 まあ、発音する時とかは、だいたい口の開きで分けていることが多いけどね。 へ～、そうなんだ。 最後は、舌の山が前と後ろ以外に、真ん中に来る場合を決めた。 さっきの第１次基本母音と第２次基本母音をたすとこうなる！ さらに、中間どころの音が加わって、これが完成品！ ここでもうひとつ気をつけることがあるよ。 何？ 母音図のひとつの点に発音記号が左右２つずつ書いてあるね。 うん。 左側に書いてあるのが、唇が非円唇（ひえんしん）になっているもの。 ひえんしん？？？ 「非円唇」っていうのは字を見ればわかると思うけど「唇が丸まっていない」ってこと。 な～んだ。 非円唇はさらに細かく、 唇が左右に引かれている「平唇（へいしん）」と 円唇でも平唇でもなく、唇がゆるんでいる「弛唇（ししん）」 の区別をすることもあるよ。 右側に書いてあるのが、唇が丸まって円唇（えんしん）になっているものなんだ。 なっとく。 記号の横の数字はさっきから気になってたんだ。 第一次基本母音、第二次基本母音にはそれぞれ母音の番号がついてる。 この番号で呼ばれることも多いんだ。 「基本母音の○番」と言われたらどれだか分かるようにね。

じゃあ、第一次基本母音から見ていこう。（ＣＤ）

⑥、⑦、⑧の母音は円唇だから気をつけて。


次は第二次基本母音だよ。（ＣＤ）

これも非円唇と円唇の違いをチェックしつつ聞いてね。


２度目はみんなもＣＤのあとについて繰り返してみよう。

同じ音が出るかな？

結構大変！

日本語にない音ばっかりだからね。

音声学を身につけるためには、いろんな音が出せたり、聞けたりしなくちゃいけない？

おいおいね。

これも修行のうち。

がんばって！


じゃ～ん！やっとフルメンバーそろって完成！



母音の分類の３つのポイント！確認しよう。

　　　①唇の丸めがあるかどうか？

　　　②口の中の開きの度合
　　　　（言い換えると舌の一番盛り上がっている点の高さ）

　　　③舌が前にあるか後ろに引かれているか？
　　　　（正確には舌の一番盛り上がっている点は前のほうか後ろのほうか？）


さあ、ここで日本語の母音について見てみようね。

やっと本題だね。

日本語の母音って、IPAの母音図と重ねるとこんな位置に分布している。

狭母音 半狭母音 半広母音 広母音		表記すると。。。 　日本語の[a]　非円唇・中舌・広母音 　日本語の[i]　非円唇・前舌・狭母音 　日本語の[ɯ]　非円唇・後舌・狭母音 　日本語の[e]　非円唇・前舌・半狭（半広）母音 　日本語の[o]　円唇・後舌・半狭（半広）母音
	【日本語の母音の位置】

なんで、１点じゃないの？

個人差なんかもあってだいたいこのくらいの位置といったほうが正確なんだ。


で、５つの母音全部に共通していることは？

基本母音と全く同じという母音はない！ってこと。

じゃあ、IPAじゃ表せないじゃないって。

そうなんだ、このままの記号だけじゃだめなんだ。

IPAって全然使えないじゃん。役立たず！

そんなことはないよ。

精密表記っていって補助記号を加えて表す方法もある。

巻末に補助記号のリストがあるから見てみてね。


ためしに、日本語の母音を精密表記するとこんな風になるよ。

もうひとつの方法としては、IPAの基本母音とは音色は違うけど、

一番近そうで使いやすそうな記号を選んで、

ある言語内限定で使うんだ。


え、どういうこと？

他の言語とは比較しないで、日本語ではこの音をこの記号で仮に表す！と決めちゃうんだ。

だから、使う人はそれが「同じ記号でもIPAの基本母音とは違う音」だってことを知ってなければいけない！

同じと誤解するとめんどうなことになる。

発音記号を書く人も読む人も「仮の表記」だって了解済みなんだね。

そうなんだ。

で、日本語の場合は、以下の発音記号を使うのが一般的になっているのでこれを覚えとこう。

正確な位置としては、前に出てきた図の通りだよ。

その点をしっかりと理解してね。

了解！

記号は書く大きさが決まっているよ。お手本の通りに大きさをそろえて書こう！



母音のまとめ！　

　（　　　　　　　）に入るのは何かな？

　　　①唇の丸めがあるかどうか？　　（　　　　　　　　　　　　　　　　　）　　（　　　　　　　　　　　　　　　　　）

　　　②口の中の開きの度合　　　　　　（　　　　　　　　　　　　　　　　　）　　（　　　　　　　　　　　　　　　　　）
　　　　
　　　③舌が前にあるか後ろに引かれているか？

　　　（　　　　　　　　　　　　　　　　　　）　（　　　　　　　　　　　　　　　　　　）　（　　　　　　　　　　　　　　　　　　　）
　　　　


練習問題

次の母音の名前から発音記号、発音記号から名前を書いてみよう！

①円唇・後舌・狭母音

②非円唇・前舌・半狭母音

③円唇・後舌・半狭母音

④円唇・前舌・半広母音

⑤非円唇・前舌・広母音

⑥[i]

⑦[ɯ]

⑧[ɛ]

⑨[ɔ]

⑩[y]


４．子音


次は子音！

子音の分類方法のポイントは以下の３つだよ。

　　①声帯振動があるかないか？（有声か無声かということ）

　　②調音の位置

　　③調音方法

有声・無声の違いってなあに？

	実験3
	[s]と[z](CDのまねをしてみてね）を出してみよう。 のどに手の平を大きくあててぶるぶると振動が伝わってくるかどうか確認しよう。 また、[s]と[z]の口の中の様子に変化はあるかな？

どうかな？ぶるぶる感じたかな？

どっちが？

もちろん[z]のほうだよね。これは前回もうやった「有声」ってことなんだ。

つまり、声帯振動がある！

反対に[s]はふるえないよね。

うん、確かに。

これは声帯がふるえてないからなんだ。声門を呼気が通過するだけ。

だから、「無声」。


で、[s]と[z]の口の中の様子はどうかな？

ほとんど同じだ！　続けて言っても動かないみたい。

子音には有声と無声という声帯振動のあるなしだけが違って

口の中の様子が同じペアがいっぱいある。

こういう時、「調音位置」と「調音方法」が同じ！っていうんだ。

だんだん複雑になってきたね。

IPAの図ではこのペアが同じ枠に無声（左）、有声（右）の順に並んでいる。

例えば、[t]と[d]。

ばらばらに覚えるより、このペアで覚えたほうが効率的だね。

そうそう。


ところで、「調音位置」ってなあに？

じゃあ、次でみていこうね。

	あっ！その前に調音器官の名前って覚えてるかな？ 書いてみよう！
	① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑧＋⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ あ い う あ＋い＋う ....................................

調音位置をみてみよう！

	実験4
	唇を閉じずには言えない音を探してみよう。 両手の人さし指を口に入れて、唇を左右に引っぱる（唇が閉じられなくなる） と言えなくなってしまう言葉を探そう。 例えば、「学級文庫」とか（笑）

子音は基本的に下あご側の調音器官（舌とかもそうだよ）が上の調音器官の方向に閉じて、

「狭め」や「閉鎖」を作る！

調音位置というのは、それらの狭めや閉鎖がどこで起こっているかってこと。

図にするとこんな感じ。

	調音の位置をみてみよう！
	①下唇→上唇 （両唇音　りょうしんおん） ②下唇→上歯 （唇歯音　しんしおん） ③舌尖・舌端→上歯の裏 （歯音　しおん） ④舌端→歯茎 （歯茎音　しけいおん） ⑤舌尖→後部歯茎 （そり舌音　そりじたおん） ⑥舌端→後部歯茎 （後部歯茎音　こうぶしけいおん） ⑦前舌→硬口蓋 （硬口蓋音　こうこうがいおん） ⑧後舌→軟口蓋 （軟口蓋音　なんこうがいおん） ⑨後舌→軟口蓋の縁・口蓋垂 （口蓋垂音　こうがいすいおん） ⑩舌根→咽頭壁 （咽頭音　いんとうおん） ⑪声帯⇔声帯 （声門音　せいもんおん）

じゃあ、いろいろな音を出してみてどこで「狭め」や「閉鎖」ができているかを調べてみよう。

調音方法の違いを感じよう！

	実験5
	①「た」[ta]と「さ」[sa]の音声の始めの部分は何が違うだろうか？ ②「ば」[ba]と「ま」[ma]の音声の始め部分の違いを考えてみよう。 どこが違っているだろうか？ 鼻をつまむと言えなくなるのはどちらかな？

[t]と[s]の違いはどうかな？

口の真ん中あたりに割り箸をはさんでみると分かりやすいよ。

こうすると、[s]は言えるけど、[t]は言えない。

なぜだか分かる？

たぶん、[s]はずっと「狭め」が続くから言えるけど、

[t]は一度閉じなきゃいけないから割り箸がじゃま。

そうだね。

一度閉じる音を「閉鎖音」というよ。

閉鎖するから閉鎖音だね。

うん。

「狭め」がずっと続く音を「摩擦音」っていう。

あと摩擦音より狭めが広いものが「接近音」だ。

図にしてみると、こんな感じ。

[t]と[s]は「調音方法」が違うんだ。

[t]は閉鎖音、[s]は摩擦音。

でも、この２音の舌の位置は大体同じだよ。

つまり、「調音方法」は違うけど、「調音位置」は同じってこと。

うん。

こういう音は常にペアにして覚えとこう。

	実験6
	日本語の子音の発音記号を覚えよう！ 単語カードに書いてシャッフルして「調音位置」、「調音方法」が同じペアを探せるまで覚えよう！ 名前を覚える時は以下の表と同じ順番で覚えよう。 例：無声・両唇・破裂音（両唇・無声・破裂音じゃなくて、 　　必ず「声の有無・調音位置・調音方法」の順番でね。 単語カードの書き方

	【ちょっと国試に挑戦】
	第2回午前70
	日本語の母音のニ分法として妥当なのはどれか。
	a. ア，イ対ウ，エ，オ b. イ，ウ対ア，エ，オ c. イ，エ対ア，ウ，オ d. エ，オ対ア，イ，ウ e. ア，オ対イ，ウ，エ 1.a、b 2.a、e 3.b、c 4.c、d 5.d、e
	第3回午前70
	日本語の母音「ア」を他の母音から区別する音韻特徴はどれか。
	1. 有声 2. 非鼻音 3. 前舌 4. 奥舌 5. 広母音
	第4回午前72
	非肺気流を用いるのはどれか。
	a．放出音 b．そり舌音 c．流音 d．ふるえ音 e．入破音 １．a、b　　２．a、e　　３．ｂ、ｃ ４．ｃ、ｄ　　５．ｄ、e
	第4回午前81
	鼻子音の音源はどれか。
	1. 声門での摩擦性乱流雑音。 2. 閉鎖の開放による破裂性雑音。 3. 鼻腔内の摩擦性乱流雑音 4. 口蓋帆の周期的振動 5. 声帯振動による周期的体積流
	第10回午前72
	国際音声字母における母音の分類基準に該当するのはどれか。
	1. 有気性 2. 円唇性 3. 側面性 4. 気流生成機構 5. ピッチ
	第11回午前36
	母音[i]を発音するときの舌の形状はどれか。
	1. 2. 3. 4. 5.
	第12回午前36
	前舌母音はどれか。
	a. [e] b. [a] c. [o] d. [i] e. [y] １． a,b　 ２． a,e 　３．.b,c 　４． c,d 　５． d,e
	第13回午後35
	円唇性をもつのはどれか。
	1. [p] 2. [m] 3. [ɯ] 4. [u] 5. [w] 1. a,b 2. a,e 3. b,c 4. c,d 5. d,e
	全部できたかな？

５．復習テスト

	それでは、まとめのテストです！
	名前 メールアドレス 学籍番号 １．基本母音は舌のどこをプロットしている？ 舌先 舌の山 ２．子音の分類方法は有声・無声、調音の位置とあとは？ 調音の方法 声の高さ ３．子音で口腔の閉鎖があるのは？ 摩擦音 閉鎖音 ４．子音で口腔の狭めが続く音は？ 破裂音 摩擦音 ５．母音はみんな？ 有声音 無声音 ６．今日の授業の進度はどうでしたか？ もっと速くてもいい ちょうどいい速すぎた ７．今日の授業のコンピュータ操作はどうでしたか？ 簡単だった 大体大丈夫大変だった ８．授業の感想・今後の希望